第四紀の大量絶滅

過去13万2千年における体重が10kg以上の陸棲動物の絶滅の分布図。

第四紀の大量絶滅 は、新生代第四紀に起こった古生物とくに大型動物相(英語版)の大量絶滅である。本項においては後期更新世の同時多発的な絶滅を中心に解説する。

第四紀の中では完新世、すなわち1万年前から現在の期間においてもホモ・サピエンスの環境破壊による大量絶滅が進行中であり、地球上の生物の少なくとも50%以上の生物種が絶滅する見込みであるが、これについては本項での記述の対象としない[注釈 1]

概要

各時代における人類の狩猟対象の小型化を示すグラフ。
コロンビア北西部で発見された岩絵エレモテリウムなどが描かれている。

第四紀の大量絶滅は、更新世の後半、おおむね最終氷期とその終了後(約7万年前-1万年前)に起こった。主に絶滅の対象となったのは「メガファウナ(英語版)」と呼ばれる大型動物相(哺乳類爬虫類鳥類)である。

現在(21世紀)の時点で、人類に匹敵またはそれ以上の大きさを持つ大型陸棲動物のほとんどはアフリカ大陸ユーラシア大陸の南方に多く、それ以外のたとえばヨーロッパや(日本列島を含む)アジアの中・高緯度地域、北米大陸南アメリカ大陸オセアニアマダガスカルなどでは現生の大型陸棲動物は少なく、大量絶滅も南北アメリカ大陸やオーストラリアを筆頭に世界規模で発生していた。対照的に、海洋生物ではこの様な大量絶滅はこの時期には発生してこなかった。

ゾウ目ではデイノテリウム科・マストドン科・ステゴドン科・ゴンフォテリウム科が全滅し、最後に残ったゾウ科もマンモス属が滅び、アフリカゾウアジアゾウマルミミゾウのわずか3種のみが生き残った。

北米大陸で繁栄した異節上目も、メガテリウムグリプトドンなどの大型種が絶滅した。北米大陸はラクダ科ウマ科バク科の故郷でもあるが、これらの全てが北米大陸から消え去った。

オセアニアで繁栄した有袋類も、ディプロトドンプロコプトドンなどの大型種が絶滅した。また、北米大陸や南米大陸に生き残っていたマクラウケニアトクソドンなどが絶滅したため、滑距目南蹄目などが消滅した。

ネコ目スミロドンダイアウルフホラアナグマアメリカライオンなどの大型肉食獣が絶滅した。鯨偶蹄目ヤベオオツノシカ・スタッグムース・ステップバイソンウマ目エラスモテリウムなど大型草食獣も数多く絶滅した。

日本列島ではナウマンゾウケナガマンモスバイソン属[注釈 2]オーロックススイギュウ[4]ヘラジカヤベオオツノジカ、中・小型の鹿類[注釈 3]ウマ本州以南のヒグマ更新世の大型オオカミ(英語版)[5]トラヒョウオオヤマネコベンガルヤマネコ[6]ステラーカイギュウなどが後期更新世以降に姿を消している[1]

その他にも、爬虫類ではメイオラニアなどの大型のカメ類、メガラニア鳥類テラトルニスコンドルなどが絶滅した。

ヒト属についても、サピエンスが急速に全世界に拡散し、ホモ・エレクトスネアンデルタール人などの化石人類が駆逐され絶滅した。

原因

人類の拡散の図。
グリプトドンを狙う人類。

第四紀の大量絶滅が起こった原因については、全世界に広がったサピエンス乱獲や道具として持ち込まれた「」や生息域を巡る人類との競合などにより滅ぼされたとする「人類原因説」と、氷期と間氷期を繰り返した更新世の急速な気候変動により滅びたとする「気候変動説」が対立しており、現在もにぎやかに議論が続いている。どちらの説も、絶滅の時期や動物相と一致しない部分があり、十分な説得力を持てていない。

しかし、近年では(野生動物と人類との接触の期間がより長かった)アフリカ大陸ユーラシア大陸の南部に現生の陸棲大型動物の大半が生き残っていることや、人類の各大陸や島々への到達の時期と大量絶滅などの時期の付随性などが目立ったり、幾度かの気候変動を乗り越えてきた数々の種類が後期更新世完新世で急に絶滅している事例も目立つことから、人類による影響が最も重大な原因だったとする言説を支持する声が増加している。中には「人類原因説」と「気候変動説」などが多角的に作用したとする説を支持する声もある[7][8][9][10]

なお、マンモスをふくむ一部については伝染病により絶滅したとの説もあり、狩猟・気候変動・伝染病などの複合的な要因により大量絶滅が起こったという玉虫色の説明を行う学者も多い。

疑似科学では、オーストリア人アレクサンダー・トールマンの「超古代彗星衝突説」がある。彼の主張によれば、9,500年前に地球に氷彗星が衝突した。この際の大津波により、聖書の記述どおりノアの洪水が起き、プラトンの記述どおりアトランティス大陸が沈み、その他世界各地の神話どおりの大災害を起こして回ったという。さらに舞い上がった塵により寒冷期が訪れ、マンモスなどの大量絶滅が起こったという。この説は、欧米の創造論者や超古代文明信奉者に一定の支持を得ている。

なお、定向進化説においては、しばしば「マンモスの長すぎる牙」や「ギガンテウスオオツノジカの大きすぎる角」を取り上げ、これらの動物は大きすぎる牙や角のせいで滅びたと説明される場合もある。

  • 北米大陸における人類の到達とそれによる大型動物相の減少・絶滅などの相関図。
    北米大陸における人類の到達とそれによる大型動物相の減少・絶滅などの相関図。
  • 各大陸や島々における大型動物相の大量絶滅の時期は異なり、「気候変動説」よりも「人類原因説」との合致性がより強い。
    各大陸や島々における大型動物相の大量絶滅の時期は異なり、「気候変動説」よりも「人類原因説」との合致性がより強い。

関連項目

脚注

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注釈

  1. ^ 現在進行形の大量絶滅に関しては、生物多様性#生物多様性への脅威を参照。
  2. ^ ハナイズミモリウシステップバイソン[1]Bison occidentalis(英語版)など。これら以外のバイソン属が日本列島に生息していたのかは不明である[2][3]
  3. ^ カトウキヨマサジカ、ニホンムカシジカ、リュウキュウジカリュウキュウムカシキョン[1]
  4. ^ アルタミラ洞窟ラスコー洞窟に描かれている動物の多くは含まれていない。

出典

  1. ^ a b c 春成秀爾, 2001年3月,『藁新世叢の太形獣の絶滅と人類』, 国立歴史民俗博物館研究報告, 第90集, 第43頁, 国立歴史民俗博物館
  2. ^ 長谷川善和, 奥村よほ子, 立川裕康「栃木県葛生地域の石灰岩洞窟堆積物より産出した Bison 化石」(PDF)『群馬県立自然史博物館研究報告』第13号、2009年、47-52頁、NDLJP:10229193。 
  3. ^ 木村 方一, 2007年, 太古の北海道―化石博物館の楽しみ, 第9章 そのほかの化石の紹介 - 3. 野牛(バイソン)の化石/八雲町郷土資料館、ISBN 978-4894534193, 北海道新聞社
  4. ^ 近藤洋一, 中尾賢一「鳴門海峡海底からスイギュウ化石の発見」(PDF)『徳島県立博物館研究報告』第31号、徳島 : 徳島県立博物館、2021年3月、1-6頁、CRID 1520853834654156160、ISSN 09168001、国立国会図書館書誌ID:031423510。 
  5. ^ 長谷川善和, 木村敏之, 甲能直樹, 2020年, 日本産後期更新世の巨大狼化石 (pdf), 群馬県立自然史博物館研究報告, 24, 1-13頁
  6. ^ 春成秀爾, 2017年, 「4 栃木県葛生産のヤマネコ」, 『『直良信夫コレクション目録』の訂正ほか』, 国立歴史民俗博物館研究報告, 第 206 集, 第103-110頁, 国立歴史民俗博物館
  7. ^ Rhys Taylor Lemoine, Robert Buitenwerf, Jens-Christian Svenning, 2023年, Megafauna extinctions in the late-Quaternary are linked to human range expansion, not climate change, AnthropoceneVolume 44
  8. ^ David Colgan, 2023年, Human-set fires 13,000 years ago led to extinction of megafauna in Southern California, カリフォルニア大学ロサンゼルス校
  9. ^ Christopher Sandom, Søren Faurby, Brody Sandel, Jens-Christian Svenning, 2014年, Global late Quaternary megafauna extinctions linked to humans, not climate change, Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences, Volume 281, Issue 1787
  10. ^ 魚津埋没林博物館, 2014年07月07日, ナウマンゾウとオオツノジカ, うもれ木(魚津埋没林博物館広報誌), 第41号, 魚津印刷株式会社
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